ぼくの映画評のぼうよみ

映画の感想を書き散らしてるだけ。

開けた世界の閉じた旅~『ダージリン急行』

父の死後、不和になった兄弟が結束を取り戻すべく、そしてヒマラヤの修道院に隠遁する母に会うために、寝台列車でインドを旅するロードムービー。個人的には初ウェス・アンダーソン

仕切りたがりの長男と、離婚を考えている嫁の妊娠に動揺する次男、女にだらしない失恋中の三男という凸凹トリオな三人が、些細なことで衝突したり、現地の景観を堪能したりしているうちに徐々に絆が深まり、それぞれが抱える問題に向き合うようになっていくという、ありきたりで特別な波乱もない凡庸な物語なのだが、自分勝手でかみ合わなかった三人の距離が縮まっていく過程は意外と違和感がないし、何よりセンス抜群な音楽の使い方と、冒頭とラストの列車に飛び乗るシーンの対比、三兄弟が列車を降りる前に順々に窓から外をのぞいていくシーンなど、シンメトリカルな演出が醸し出すポップ感、そして修道院から望む朝焼けや村の葬式など映像の美しさ等々、評価すべき点は多い。

特に美術は、インドが舞台ということもあってか独特で、ダージリン急行の車体やターバンを巻いた車掌、なんでこんな田舎の村の家がこんなにポップでお洒落なんだとツッコみたくなるターコイズブルーの壁等々、エキゾチシズムに溢れている。

現実のインドはもっと汚くて猥雑だなんて、ツッコむだけ野暮だろう。三人の主人公はインドに振り回されることで成長するわけではなく、あくまでもお互いと母親との会話でそれぞれの問題に向き合い、自己完結してしまう。

三人が関わる主なインド人は、三男がゆきずりセックスをする車内販売のおねーちゃんと、川で溺れていたところを救ったり救えなかったりした子どもたちとその遺族くらいで、それらはあくまでも元カノや父の死を喚起する触媒にすぎない。

たぶん、舞台はインドじゃなくてもよかったのだろう。日本でも、アフリカでも。リアリティよりエキゾチシズムこそが重視される。欧米人の想像するエキゾチックな異郷を訪れ、郷愁に浸りつつ自分を振り返る、ただそれだけの映画。

父の死後、なぜ兄弟が不仲になったのか、なぜ母は修道院に隠遁するのか、僕が行間を読めなかっただけかもしれないが、たぶんその辺の理由もどうでもいいことで、雰囲気にひたって映像と音楽を楽しめれば万事オーケーなのかもしれない。